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契約書の作成やチェックのコツ

契約書の作成やチェックに慣れていない人にとっては、何を、どのように書けば良いのか分からない、一度読んだだけでは良く理解できない、ということがあるかもしれません。


特に、中小事業者、個人事業主、フリーランス、スタートアップの皆さんにとっては、忙しい業務の合間に不慣れなタスクが割り込んでくると、非常に煩雑に感じられるのではないでしょうか。


もちろん、当事務所などの専門家に依頼すれば、時間を節約し、本業に専念することができますし、判らなことがあっても、丁寧に教えてもらえます。

コストはかかりますが、何より安心感を得られますし、現実的にもリスクを避ける助けになりますので、長い目で見ればコストパフォーマンスは悪くないのではないかと思います。


とは言え、自分で何とかしなければならない場合もあるでしょう。

そこで、皆さんが契約書の作成やチェックを行う際に少しでも参考になればと思い、私なりに常々意識していることをお伝えしたいと思います。基本的なポイントを押さえるだけでも、ずいぶんと負担が減るのではないかと思います。


1.契約書作成の際に意識していること


(1)目的を明確に書く

まず、何のためにこの契約を結ぶのか、目的をはっきりと意識しなければなりません。

単純な物の売り買いや貸し借り、業務の委受託など、比較的分かり易い契約もありますが、色々な要素が混ざっていて、分かりずらいケースも中にはあります。

 

頭の中が整理されていない状態だと、契約書を書いてみても、何を言いたいのか分からない契約になってしまいますので、まずは主要な目的を明確に打ち出すように書くことが重要です。

 

木に例えれば、幹となる部分を意識して、しっかり書くということです。


(2)5W1Hを漏らさず書く

5W1H は、「When(いつ)」、「Where(どこで)」、「Who(誰が)」、「What(何を)」、「Why(なぜ)」、「How(どのように)」です。


5W1Hを意識すれば、情報や思考を整理整頓することができ、抜け漏れなく必要な事項を正しく表すことができます。


「When(いつ)」 は、実施するタイミング、期限(いつまでに)、期間(いつからいつまで)などの時間的な要素で、納品時期、支払期限など、契約書の中では頻出の要素です。


「Where(どこで)」 は場所的な要素です。納品場所、業務の実施場所などに関係します。


「Who(誰が)」 人的な要素です。実施主体(誰が)、相手方(誰に)、関係者(誰と)など、契約における登場人物を網羅的に挙げ、 役割分担や関係を明確にします。


「What(何を)」 は、契約の目的物や行為の内容を表します。


「Why(なぜ)」 は理由です。契約の根拠や必要性を示すことによって、契約の解釈に重要な役割を果たすことがあります。


「How(どのように)」は、実施手段や方法を表します。分量(How many)や金額(How much)を明確にすることも重要です。


(3)時系列で書く 

例えば、業務委託契約の場合、委託内容を決め→それに基づいて業務を実施し→成果物を納品し→委託内容に合っているかどうかを確認し→報酬を支払う、というような流れがあります。

 

このような流れに沿って書くと、非常に分かり易い契約書になります。


(4)主要部分から付随的な部分に向かって書く

売買契約であれば、目的物は何か、いつ、どこで引渡すか、価格はいくらかが主要な部分になるでしょう。

 

まず、主要な部分を書いて、その後に、目的物にキズがあったらどうするか、どういう場合に契約を解除できるか、契約に違反したらどうするか、など付随的な内容を書きます。

 

木に例えれば、幹から枝葉へ向かうイメージです。

主要部分がしっかり書かれていれば、それだけでも十分契約書として成り立ちます。


(5)平易な言葉を使う

当事者が誤解なく、明確に理解できるのであれば、何も難しい法律用語を使う必要はありません。それに、言葉足らずよりは、多少長くなっても分かり易く書こうと思っています。

 

また、曖昧な表現は後々のトラブルの原因になりますから、「速やかに」、「適切に」といった言葉ではなく、「〇〇日以内に」、「〇〇の方法で」のように具体的に書くことが大切です。 


(6)ひな形を参考にする

契約書のテンプレートや書き方の解説は、インターネットや書籍でいくらでも手に入ります。

 

ひな型には、契約内容に応じ、一般的に必要とされる条項が網羅的にカバーされていますから、内容の抜け漏れをチェックしたり、含めるべき内容を把握するのに役立ちます。

 

ただし、ひな形をそのまま使えるケースはほとんどなく、実際の契約内容に合うように修正することが必要です。 


一般的に、契約書には以下の項目が記載されています。

①当事者: 誰と誰の間の契約なのかを明確にします(氏名、住所など)。

②契約の目的: 何についての契約なのかを具体的に記載します。

③履行内容: 提供するサービスや物品、支払う金額などを具体的に記載します。

④対価: サービスの対価や物品の代金を明確に記載します。

⑤支払方法・時期: いつ、どのように支払いが行われるかを記載します。

⑥契約期間: 契約がいつからいつまで有効なのかを記載します。

⑦解除条件: どのような場合に契約を解除できるかを記載します。

⑧損害賠償: 契約不履行があった場合の損害賠償について定めます。

⑨紛争解決方法: 万が一、紛争が生じた場合の解決方法(協議、裁判など)を定めます。


2.契約書をチェックする際に意識していること 


(1)全体を丁寧に読む

まずは、契約書全体をじっくりと読み、俯瞰的に全体像を把握し、かつ、細部まで内容を理解することが基本です。不明な点や気になる点があれば、マーキングしておいて、後で調べたり、相手に確認したりします。


(2)自分にとって不利な条項がないか確認する

義務ばかりが一方的に課せられていたり、責任の範囲が広すぎたりする条項はないか、注意深く確認します。「ただし」、「~の場合を除く」といった例外規定も見落とさないようにします。


(3)曖昧な表現に注意する

「できる限り」、「努力する」といった曖昧な表現は、解釈の余地を残し、トラブルにつながる可能性があります。具体的な表現に修正してもらうよう交渉することも検討すべきです。


(4)金額や期日などの数字を確認する

金額、数量、期日など、具体的な数字は間違いがないか念入りに確認します。


(5)契約不履行の場合の取り決めを確認する

契約が守られなかった場合、自分にはどのような権利があるのか、相手からどのような対応を求められるのかを確認します。


(6)第三者の意見を聞く

可能であれば、違う人にも読んでもらいます。客観的な視点から、気づかなかった点が見つかることがあります。


(7)交渉する意識を持つ

契約書の内容は一方的に決められるものではなく、締結が強制されるものでもありません。双方が合意して初めて成立するものです。納得できない点があれば、遠慮せずに交渉する姿勢が大切です。


(8)その他

契約書の内容だけでなく、契約書の体裁を整えたり、誤字脱字を直したり、条項のズレ(条項を追加・削除したときは要注意です)がないかを確認することも大切です。

間違いが多いと、契約書に対する信頼性が揺らぎます。最後にもう一度よく読んで、間違いが無いように確認します。


以上、契約書の作成やチェックを行う際に、私なりに意識していることを書きました。


契約書作成やチェックが上手くできるようになるには、慣れや経験が必要であることは確かですが、以上に書いたことを是非参考にしていただいて、前向きに取り組んでいただきたいと思います。